アメリカの歴代44人の大統領を対象に、偉大さを100点満点で評価するアンケートが実施された。
予想がつくだろうが、2018年アンケートでWorst 1はトランプ現大統領。
Image Source: The New York Times “How Does Trump Stack Up Against
the Best — and Worst — Presidents?” (2018/2/19)
Survey Source: Boise State University “Official Results of the 2018 Presidents & Executive Politics Presidential Greatness Survey“
個人的に驚いたのが、トランプ大統領の12点よりも、ビリから2番目のブキャナン大統領の15点だ。第15代大統領ブキャナン(1857–61年に在任)は、前回2014年調査の際にも最下位を記録している。
トランプ級のひどい大統領が、アメリカの歴史上に他にもいたのか!
♣目次
- そもそもアンケートは正確なのか?
- 本当にトランプ大統領が最悪なのか?
- ブキャナン大統領って誰?
- その他ランキングで特筆すべき歴代大統領
♣そもそもアンケートは正確なのか?
この手の統計データが出てくると、どうしても「そもそも信用できるのか?」を疑いたくなってしまう。
誰がこのアンケートに回答したのかと言うと、The American Political Science Association (APSA) という団体に所属している(していた)メンバーに限定している。つまり一般投票ではない。
このAPSAというのは、政治学の学者と学生1万2000人が加盟する非営利団体の大手で、設立は1903年と歴史がある。
アンケート回答権があったのは、APSAの中でもPresidents & Executive Politics Sectionという部会に所属する320名で、そのうち170名が有効回答を寄せている。
アンケート回答者数は170名と少ないが、いわゆる「プロの目」で選んだ歴代アメリカ大統領の通信簿というわけだ。ということで、アメリカの主要メディアの多くはこのアンケートを引用して報道している。
♣本当にトランプ大統領が最悪なのか?
実は回答者を「民主党支持者」(左側、青色)、「浮動票またはその他政党支持者」(中央、グレー色)、「共和党支持者」(右側、赤色)に分類すると、ランキングに違いが出てくる。
民主党支持者はトランプを最悪の大統領に選んでいるが、共和党支持者とその他はともにブキャナンを最悪の大統領に選んでいる。
にも関わらず、全体平均するとトランプが最悪の大統領ということは、回答者に民主党支持者が多いということだ。
ちなみにアメリカ国民全体平均だと、2017年時点で浮動票が42%、民主党支持が29%、共和党支持が27%の構成比となっている。
Source: Gallup “US Party Affiliation“
なので、ランキングアンケートに回答した有識者は、アメリカ平均よりも民主党支持者の割合が多く、トランプをディスっているだけとも言える。本来はブキャナンが最悪の大統領と言えるだろう。
♣ブキャナン大統領って誰?
第15代大統領ブキャナン(民主党)は、なぜ最悪なのか?
ブキャナンは南北戦争(1861-65年)が勃発する直前に大統領を務めた。奴隷問題でアメリカ全土が二分される事態に陥っても、収集できなかったというのが不人気の理由だ。
ではブキャナンは無能だったのか?
実はブキャナンはもともと優秀な弁護士で、その後上院と下院の議員も務めている。トランプのような政治の素人ではない。
ブキャナンの奴隷問題に対するスタンスは「合衆国連邦政府ではなく、各州でそれぞれ意思決定すべき問題」だ。
Source: History.com “Why is James Buchanan considered one of America’s worst presidents?“
ちょっと意外だったのが、ブキャナンが民主党という点。一般的に共和党=保守=小さな政府指向なので、連邦政府ではなく各州に意思決定を任せるべきという考え方が根強い。
それに対して民主党=リベラル=大きな政府指向。例えばLGBTの権利を積極的に保護するなど、マイノリティや弱者を救い上げる傾向がある。
ブキャナンの時代は、まだ民主党がそこまでリベラルではなかったのか? それとも単にブキャナンの判断力が乏しかったのか? うーん、分からない。
♣その他ランキングで特筆すべき歴代大統領
- 第9代W. H. ハリソン(ホイッグ党): 大統領職在任1か月で肺炎で死去のため、42位(ハリソンの略歴)
- 第14代ピアース(民): 奴隷問題を深刻化させたとして、41位(ピアースの略歴)
- 第15代ブキャナン(民): 奴隷問題を南北戦争に発展させたとして、43位(ブキャナンが低評価な理由)
- 第16代リンカーン(共): 奴隷制拡大に反対し、南北戦争を収束させたとして、1位(リンカーンの略歴)
- 第17代A. ジョンソン(共): アメリカ史上初の弾劾された大統領として、40位( A. ジョンソンの弾劾)
Source: History.com
W. H. ハリソンを除き、ほとんどが人種差別がらみということだ。つまり
国を二分するような状況下でうまく立ち回れたら優秀、深刻化させたら無能
ということだ。
ついでなので、先述のAPSAのアンケートの一環で行われた「最も世論を二分させた大統領」ランキングもご紹介。
1人あたり最大5名の大統領まで投票できる。有効回答数が170なので、得票数の合計は170~850票の間となる。
「平均ランキング」というのは、例えば3名の回答者がA大統領を「世論を二分させた大統領トップ5」に選び、それぞれ1位、2位、4位だったとする。この場合、平均ランキングは2.33 (=(1+2+4)÷3) となる。
大統領名 | 得票数 | 平均ランキング |
---|---|---|
Donald Trump | 138 | 1.62 |
Andrew Jackson | 81 | 3.26 |
George W. Bush | 74 | 3.28 |
Barack Obama | 72 | 3.26 |
Richard Nixon | 55 | 3.27 |
Abraham Lincoln | 55 | 2.4 |
Andrew Johnson | 37 | 3.18 |
Ronald Reagan | 33 | 3.91 |
Bill Clinton | 30 | 3.7 |
Franklin Roosevelt | 29 | 3.87 |
Thomas Jefferson | 18 | 2.89 |
Woodrow Wilson | 15 | 3.67 |
James Buchanan | 15 | 2.53 |
John Adams | 14 | 2.93 |
Lyndon Johnson | 11 | 3.82 |
Herbert Hoover | 8 | 3 |
John Quincy Adams | 5 | 4.2 |
Franklin Pierce | 4 | 2.75 |
Theodore Roosevelt | 3 | 3.33 |
Harry Truman | 2 | 4.5 |
William McKinley | 2 | 4 |
George H.W. Bush | 2 | 3.5 |
John Tyler | 2 | 3 |
James Polk | 2 | 2.5 |
Ulysses Grant | 1 | 5 |
Jimmy Carter | 1 | 5 |
Grover Cleveland | 1 | 4 |
James Madison | 1 | 4 |
Warren Harding | 1 | 4 |
Zachary Taylor | 1 | 3 |
Survey Source: Boise State University “Official Results of the 2018 Presidents & Executive Politics Presidential Greatness Survey”
ぶっちぎりでトランプ大統領が1位。回答者170人中、約8割がトランプ大統領をトップ5にランクインさせている。しかも回答者170人の約4割はトランプ大統領を1位にランクインさせている。
無能の評価を受けたブキャナン、A. ジョンソン、ピアースもランクインはしているものの、トランプには遠く及ばない。
つまりは「無能」かつ「世論を二分させている」という二重苦のレッテルをトランプは貼られている。
うーん、ところでこういうアンケート調査って日本でもやっているんだろうか?
首相がコロコロ変わるから、集計不能なのかもしれないが。