九州の豪雨被害で苦しむ方々には申し訳ない。
だが、梅雨時に首都圏ではそこまでザーザー雨は降っていない感覚だ。
梅雨時に、私は庭木に水を撒いていた。
屋外駐車場に停めている車に土埃が積もるのも、土壌の水分量が減って、風で飛ばされている証拠だろう。
そんなこんなで、首都圏ではとうとう7月19日に梅雨明けした。実際にはもっと前から明けていた気がするが。
実際に、2017年7月には、荒川水系のダム貯水率が下がり、一部の農業用水の取水制限が始まったという。
そこで首都圏のダムについて、徹底分析!
♣論点
- 荒川水系のダム貯水率が危ない?
- どの地域が取水制限の対象なの?
- 荒川水系以外はどうなの?
- 雨が降らなかったら、何日持つの?
- 荒川水系の渇水は、天災ではなく人災だった!
♣荒川水系のダム貯水率
ちょっと見づらいかもしれないが、荒川水系の4つのダムの合計貯水量を比較したグラフをどうぞ。
2017年(平成29年)は、濃い赤色の線で示されている。6月に雨が降らなかったため、急激に貯水率が低下し、2017年7月14日現在で貯水率は
- ダムの満水容量に対して33%
- 夏季の有効容量に対して60%
- 平年の貯水量に対して64%
という状況だ。
報道では、夏季の有効容量ベースの貯水率が発表されるため、60%なら大丈夫では?と思ってしまうが、ダムの映像を見ると、満水の1/3しか水がないので、干上がっているのが一目瞭然だ。
ちなみに荒川水系とは、以下の4つのダムの総称。
ダム名 | 有効容量 (万m3) |
貯水量 (万m3) |
貯水率 (%) |
前日補給量 (万m3/日) |
平均値に対する割合 (%) |
二瀬ダム | 1,253 | 362 | 29 | 6 | 31 |
滝沢ダム | 2,500 | 1,338 | 54 | 15 | 59 |
浦山ダム | 3,300 | 2,251 | 68 | 8 | 70 |
荒川貯水池 | 760 | 763 | 100 | 2 | 109 |
4ダム合計 | 7,813 ※1 |
4,714 ※2 |
60 ※3 |
31 ※4 |
64 ※5 |
- ※1 有効容量は夏期制限容量。
- ※2 貯水量は速報値。
- ※3 貯水率は有効容量(夏期制限容量)に対する貯水量の割合。
- ※4 前日補給量とは前日(0時)の貯水量と本日(0時)の貯水量の差。
(値がマイナスの場合は、ダムに水を貯めている状況(貯留)です。値がプラスの場合は、ダムに貯めた水を川に流している状況(補給)です。) - ※5 平均値に対する割合とは本日の貯水量と貯水量の平均値(平成22年~平成28年)に対する割合
Source: 国土交通省関東地方整備局「首都圏の水資源状況について」(2017年7月14日データ)
♣荒川水系って、どこ?
- 私の住んでる地域は、どこの水系から水を得ているのだろうか?
- ぶっちゃけ、自分に関係あるの?
と思った人も多いだろう。
Source: 個人サイト「荒川のあらまし」
荒川水系は埼玉県秩父市からスタートし、長ネギの産地で有名な深谷市、天気予報で酷暑地として登場する熊谷市、小江戸の川越市、県庁所在地のさいたま市、競艇で有名な戸田市、などを通過。
東京都では北区や足立区などの北部を通過し、隅田川に平行するような格好で、東京湾に到達する。
ということで、上述の都市近郊に住んでいる人は、荒川水系の貯水が減ると即・取水制限。
・・・というのは早合点!
首都圏の水系は荒川水系だけではない。利根川水系や鬼怒川水系、多摩川水系、相模川水系も流れているからだ。
Source: 埼玉県庁ホームページ「利根川水系・荒川水系の水資源開発現況図」
♣荒川水系以外はどうなの?
2017年7月14日時点の各水系の水量と貯水率を列記すると
現在 | 夏季
有効 |
満量 | vs. 夏季 | vs. 満量 | vs. 平年 | |
利根川水系 | 30,567 | 34,349 | 46,163 | 89% | 66% | 102% |
鬼怒川水系 | 11,253 | 15,140 | 25,310 | 74% | 44% | 84% |
荒川水系 | 4,714 | 7,813 | 14,420 | 60% | 33% | 64% |
相模川水系 | 15,585 | 22,118 | 27,722 | 70% | 56% | 77% |
多摩川水系 | 14,606 | 18,540 | 18,540 | 79% | 79% | 98% |
北部3系計 | 46,534 | 57,302 | 85,893 | 81% | 54% | 92% |
南部2系計 | 30,191 | 40,658 | 46,262 | 74% | 65% | 86% |
数字の単位は万立方メートル。
現在水量は2017年7月14日時点。満量はダムに目一杯貯水した場合のキャパ。夏季有効は、夏季に利水が増えるためにダムから放水するため、夏季限定(7月1日~9月30日)でキャパを減らしている。
この表から言えることは
-
そもそも荒川水系だけダムのキャパがショボすぎる
-
夏季に利水が増えるため、荒川水系はさらに夏季に放水しすぎ
-
これらの構造欠陥に加え、荒川水系は2017年に雨が少ない
-
実は荒川水系だけでなく、相模水系(神奈川県西部・南部)がヤバい
-
つまり、埼玉県産・神奈川県産の野菜がヤバい
ということだ。
オレンジ色: 利根川水系のダム
- 矢木沢ダム(湯沢市の東部、奥利根湖)
- 奈良俣ダム(奈良俣湖、道元の滝の上流)
- 藤原ダム(藤原湖)
- 相俣ダム(水上スキー場近く、赤谷湖)
- 薗原ダム(沼田市の東部、薗原湖)
- 草木ダム(桐生市の北部、赤城山の東部、草木湖)
- 渡良瀬貯水池(古河市中心)
- 下久保ダム(秩父市の北、御荷鉾山の東、神流湖)
黄色: 鬼怒川水系のダム
- 川俣ダム(日光市の北西、女峰山の北)
- 湯西川ダム
- 川治ダム(川治温泉、八汐湖)
- 五十里ダム
赤色: 荒川水系のダム
- 浦山ダム(秩父市中心)
- 滝沢ダム(中津川のスタート地点)
- 二瀬ダム(秩父湖)
緑色: 多摩川水系のダム
- 小河内ダム(奥多摩湖)
青色: 相模川水系のダム
- 相模ダム(相模原市、相模湖)
- 宮ケ瀬ダム(相模原市、宮ケ瀬湖)
- 城山ダム(相模原市、津久井湖)
紫色: 武蔵水路(利根川を荒川に導水、埼玉県行田市~鴻巣市)
- 武蔵水路より東側 or 南側は、利根川と荒川の両方から水が流れてくるので安心
- 具体的には、埼玉県さいたま市・川口市・越谷市など、東京都23区のほとんど(世田谷・大田区のぞく)は武蔵水路の恩恵を受けている
ピンク色の地域: 荒川水系ダム単体に依存
- 武蔵水路の上流のため、秩父市で雨が降らないと、渇水リスクが高い
水色の地域: 相模川水系ダム単体に依存
- 人口を多く抱える神奈川県横浜市、東京都世田谷区・大田区は多摩川水系の恩恵を受けるので、比較的リスクヘッジできる
- 相模川水系にのみ依存するのは、神奈川県内でも野菜の栽培が盛んな地域(相模原市、鎌倉市、小田原市、厚木市など)で、リスクが高い
♣荒川水系・相模川水系の渇水は人災?!
現在、追加でダム建設が2か所で進んでいる。八ッ場ダム(ヤンバと読む)、思川ダムだ。実はこの2つの新ダムは、利根川水系に属する。
人口集中が進む東京23区、千葉県千葉市・浦安市、埼玉県さいたま市などへの水需要増に対応するためだろう。
ところがこれらは生活用水の需要だ。農業用水のことが忘れ去られている。
その結果、人口は少ないが農業が盛んで、首都圏の台所を支えている荒川水系や相模川水系への対応が行き届いていない。
残念ながらこれらの農業地域は、政治の票集めにつながらないため、予算が回らないのだろう。
荒川水系・相模川水系の渇水は、ある意味「人災」と呼んでも良いのかもしれない。
♣あと何日持つのか?
貯水率ではなく、貯水量で考えてみよう。今夏に全く雨が降らなかった場合、あと何日耐えられるのだろうか?
まず、日本人が使う水の内訳を見てみよう。
![WaterSupply_DemandCategory_2013](https://dogearmemo.wordpress.com/wp-content/uploads/2017/07/watersupply_demandcategory_2013.png?w=1088)
Source: 国土交通省水資源部「平成28年度版 日本の水資源の現況」
実は農業用水で2/3を占めてました! 生活用水は2割だけでした!
しかも家庭用水は全体の8%だけでした!
(生活用水は家庭用水と都市活動用水(店舗や事務所、公園など)の合算のため)
つまり、どんなに自宅で夏場に節水に励んでも、大差はない。
問題は、農地の多い地域で農業用水をどれだけ確保できるか?なのだ。特に夏場。
東京・神奈川・埼玉・千葉・栃木・群馬の1都5県に限定したら、ダムのキャパはどれくらい耐えられる仕組みなのだろうか? 試算してみた。この前提だと、
全く雨が降らなかった場合、21日。つまり、2017年8月上旬が完全渇水の限度
平年並みの降水量 (200mm/月) が見込めた場合、33日。つまり2017年8月中旬が完全渇水の限度
平年以上の降水量 (400mm/月) が見込めた場合、55日。つまり2017年9月中旬が完全渇水の限度
ちなみに首都圏なのに、茨城県を除外するのはなぜ?と思うかもしれないが、今回調査した5水系(利根川水系、鬼怒川水系、荒川水系、多摩川水系、相模川水系)に茨城県はほぼ影響を受けないから。茨城県イジメじゃないよ。
さて、この渇水予測の数字に現実感があるか、サンプル抽出して確認してみた。妥当な数字のようだ。
♠試算方法の詳細
Input: 5水系合計の貯水量
- 2017年7月14日時点で、76.7億立方メートル
Output: 1日あたり平均水使用量
- 全国で年間802億立方メートル(農業・生活・工業計; 2013年実績値)
- 生活用水は人口比で、農業用水は耕地面積比でそれぞれ配賦。工業用水は関東の内訳公表数を使用し、1都5県で年間118億立方メートル(農業・生活・工業計; 推計)
- 農業は94.7%、生活は79.0%、工業は71.9%を河川から取水し、残りは地下水利用(2011実績値)
- 夏季で日照りが続くと、農業と生活用水の使用が増えることを勘案し、単純平均ではなく傾斜率掛け合わせ、1都5県で夏季の日次河川取水量は2,930万立方メートル(推計)
- 日照りの場合、ダムや河川の水が自然蒸発する量を、ダム満水貯水量の0.5%/日と仮定し、661万立方メートル(推計)
➡ 76,725万 / (2,930 + 661) = 21日となる。
<妥当性検証>
首都圏5水系のダム全てが満量だと、13.2億立方メートルの水量(実数)。
1都5県の河川取水量は、月間9.8億立方メートル(全国使用量からの推計だが、誤差少な目)。
つまりダムが完全に満水の状態でも、その後に日照りが続くと、1ヶ月半も持たない計算なのだ。
既に貯水率が低下している現状だと、日照りが続けば21日で底をつくという計算は、決して大げさではないことが分かるだろう。
♠試算の参考データ
水消費計 | 生活用水 | 工業用水 | 農業用水 | |
日本計 | 802.0 | 151.0 | 111.0 | 540.0 |
1都5県計 | 118.4 | 47.6 | 19.3 | 51.5 |
東京 | 23.5 | 16.1 | 6.5 | 0.9 |
神奈川 | 17.6 | 10.8 | 4.4 | 2.4 |
埼玉 | 21.4 | 8.6 | 3.5 | 9.3 |
千葉 | 25.6 | 7.4 | 3.0 | 15.2 |
栃木 | 18.3 | 2.3 | 1.0 | 15.0 |
群馬 | 12.1 | 2.3 | 1.0 | 8.8 |
1都5県計 | 14.8% | 31.5% | 17.4% | 9.5% |
東京 | 2.9% | 10.6% | 5.9% | 0.2% |
神奈川 | 2.2% | 7.2% | 4.0% | 0.4% |
埼玉 | 2.7% | 5.7% | 3.2% | 1.7% |
千葉 | 3.2% | 4.9% | 2.7% | 2.8% |
栃木 | 2.3% | 1.6% | 0.9% | 2.8% |
群馬 | 1.5% | 1.6% | 0.9% | 1.6% |
Source: 国土交通省水資源部(日本全体、および工業用水の関東圏使用量; 2013年実績値)
水量単位: 億立方メートル
註: 生活用水と農業用水は、全国の水使用量を人口および耕地面積で配賦し、1都5県の数値を算出した
工業用水については、関東圏の使用量を、人口比で1都5県に配賦した
%は全国の各用水に占める都圏の占拠割合
人口 | 農地面積 | |
日本計 | 127,094,745 | 4,471,000 |
1都5県計 | 40,078,055 | 423,600 |
東京 | 13,515,271 | 7,000 |
神奈川 | 9,126,214 | 19,400 |
埼玉 | 7,266,534 | 75,800 |
千葉 | 6,222,666 | 126,300 |
栃木 | 1,974,255 | 124,200 |
群馬 | 1,973,115 | 70,900 |
1都5県計 | 31.5% | 9.5% |
東京 | 10.6% | 0.2% |
神奈川 | 7.2% | 0.4% |
埼玉 | 5.7% | 1.7% |
千葉 | 4.9% | 2.8% |
栃木 | 1.6% | 2.8% |
群馬 | 1.6% | 1.6% |
Source: 農水省「耕地面積調査」、総務省
単位: 人口は人、耕地は田畑合計でヘクタール
♠日本の生活用水
情報ソースによって「生活用水」の定義がバラバラなので注意が必要だ。正しくは、
Source: 国土交通省水資源部「平成28年度版 日本の水資源の現況」
ところが、情報ソースによっては「家庭用水」のことを「生活用水」と呼ぶことがあるので注意が必要だ。
![img1](https://dogearmemo.wordpress.com/wp-content/uploads/2017/07/img1.gif?w=1088)
ヨーロッパ本土と比較すると日本は水を多く使っているが、水資源が厳しいと言われるオーストラリアやアメリカは、結構ムダ使いしてるんだね。
上図の東大生産技術所のデータだと1人あたり1日で135リットル程度。これは、生活用水のうち、家庭用水に限定した数字。
![img2](https://dogearmemo.wordpress.com/wp-content/uploads/2017/07/img2.gif?w=1088)
![img3](https://dogearmemo.wordpress.com/wp-content/uploads/2017/07/img3.gif?w=1088)
念押しするが、135リットル(2010年)は、「生活用水」じゃなくて「家庭用水」ね。元データの国土交通省は合ってるが、それを引用してグラフ作成したTOTOが間違ってるぞ。
Source: TOTO お客様向け環境コミュニケーションサイト(図表転載)
最近は節水の家電が普及したことから、1990年代と比べると、1人あたりの水使用量が若干減ったのかも?? 例えば洗濯機だと、インバーター付きの縦型洗濯機は、インバーターなしの縦型洗濯機よりも2割近く節水。そして縦型よりもドラム式洗濯機の方が、さらに節水だ。